世界初の研究ってどんな感じ?

自由研究

先日、私の昔の研究仲間からお正月メールが届きました。その中に、

I’m surprised! What do you mean with the “retired”? (驚いています!「(研究者を)引退した」ってどういうこと?)

と書かれてありました。まあ、このフレーズは、これまでも色々な研究者からいただいています。もう慣れましたけれどもね。

過去の仕事を思い出すメールをいただきましたので、ちょっと昔話を。


今日は、「世界初の研究ってどんな感じ?」と題してのお話です。


ちょっと難しいことが出てきますが、そのあたりは飛ばして大丈夫です。研究の世界の雰囲気を味わって下さいね。


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確立された学問分野の系列の研究

研究は、時間が流れるにつれて、どんどん細分化されていきます。そして、一連の流れの系列の分野が生まれ、確立されます。

もちろん、どの研究も世界初なのですが、それでも一連の流れの中に入ると、ある程度先は読めます。安心が生まれます。


世界初の研究ってどんな感じ?

正直いって、正しいことをしているのか分かりません(笑)。もちろん、その時代時代の最先端の知識で理解されるベストを尽くしてやっています。

でも、本当の世界初となると、前例がないので、よくわからないのです。

研究は進んでいるのかも知れません。袋小路に入っているかも知れません。後退しているのかも知れません。わかりません。

不安しかありません。


世界初のヤンバルトサカヤスデの酵素の研究

冒頭のメールを出していただいた方とは、ヤンバルトサカヤスデの酵素の研究を一緒にやっていました。

具体的には、(R)-マンデロニトリルからシアン化水素(ヤンバルトサカヤスデの防御物質)とベンズアルデヒドへ分解する反応を触媒する酵素です。酵素工学的に薬などの光学異性体を作る場合は、この逆反応を利用します。

産業への応用に期待されていますので、この仕事は世界中からとても注目されました。発表されたときは、Yahoo!Japanだけでなく、海外のニュースにも掲載されたのを覚えています。


データベースに載っていない新しい塩基配列が見つかる

2010年代に入って、私たちの学問でも遺伝子情報は重要な武器となり、先を見通すために必須なものとなりました。ですので、私たちは、ヤスデの酵素も既知のものと似ていると初めは考えていました。

精製・単離の繰り返し。でも、それだけでは2010年代は論文にはなりません。cDNAの塩基配列が必須です。

しかし、出てきた塩基配列は全くの新規。世界中の遺伝子データベースに、その記録はありませんでした。

遺伝子、cDNAの研究をしている人は、これがいかにおかしな結果か容易に分ると思います。なぜなら、これだけ塩基配列情報が集まった現代、似た配列がデータベースに載っていないなど、考えられないからです。

これが酵素?と思えるような短くて変な配列でした


不安の中で疑いを払拭する研究をする

関わった全員が顔を見合わせました。私も彼もベストを尽くしましたが、疑い始めたら、いくらでも疑えます。

何を考えてもたくさん可能性が出てしまいます。最終的に、とったcDNAの塩基配列からリコンビナントタンパク質(人造タンパク質)をつくり、それがヤスデの酵素と同じ活性があるかどうかを確かめました。

結果は、同じ酵素活性がありました

私たちの研究が正しいことを証明しました


忘れられない仲間の言葉

メールをくれた彼が、研究室で私に言い放った言葉を今でも覚えています。

The series of experiments on this enzyme kill me.(この酵素に関する一連の研究は、私を殺す。)

彼は死にものぐるいで実験をやりました。それは分かっていましたが、それでも、私は、私の立場から彼に対してさらに厳しい要求をしました。

前人未到の研究とは、本当に、研究者その人その人の限界の向こう側へ行くことで達成されます。当時は、ものすごい大喧嘩になりました。今となっては、お互いいい思い出です(笑)。

少しオーバーですが、研究室ではこんなこともあるのです(笑)。

永遠に引用され続ける論文に関われる仕事に出会えて、ボス、メールの仲間、そして、共著者の方々に感謝です。

この仕事はこの雑誌の表紙になりました。

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