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アシジロヒラフシアリが家の中に入ってきて、大変なんですけれども・・・
ガイドさんって、昆虫の博士ですよね
私は、普段、自由人に見えるような生活をしています(真面目に仕事はしているつもりですよ(笑)。)。さて、私は、色々な専門分野を研究してきましたが、その中に、化学生態学というものがあります。
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フェロモンの同定とか、それにまつわる生物の行動の制御とかですね
この話を相談されたときに、実験が楽しそうでしたので、試しにやってみようと思いました。
結果を先に見せますと、私が管理した建物とそうでない建物ではこれだけの差が生まれます。
私が管理した方の写真には、アシジロヒラフシアリが1頭写っていますが、これは探索隊です。あとで、ちゃんと処理しました。
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私が管理した場所。1頭のアシジロヒラフシアリが見られました。
一方、何もしないとこんな感じです。このような光景は、八丈島に住んでおられる方々であれば、1度は見たことがあるのではないでしょうか?
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私が管理しなかった場所。アシジロヒラフシアリの行列が見られました。
私は過去に4件対策をしてきました。今のところ、全てうまく行っています。
今日は、「アシジロヒラフシアリを家の中に入れない私の方法」と題してのお話です。
アシジロヒラフシアリが嫌われる理由
八丈島の家の外を見ると、小さなアリの大行列が見られます。これはアシジロヒラフシアリのものです。
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壁とか、エアコンのダクトなどにも見られますね
アリは、昆虫も食べますので、島民の方々も心の底から嫌っているわけではないと思います。ただ、配電がショートしてボヤが発生するのが一番困るのです。
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アシジロヒラフシアリのせいで家が火事になるのは、さすがにダメです
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依頼された一軒家の様子
図解するとこんな感じです。
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依頼された一軒家は、アシジロヒラフシアリが住むビロウ畑(これはケースバイケースです。)が隣接しており、ものすごい勢いでアリが建物の中に入ってきていました。建物の外壁やエアコンのダクトには、アリの行列が出来ていました。
アリがきれいに行列を作るのは、お尻から道しるべフェロモンを出し、後ろの個体にシグナルを送っているからです。
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建物の外壁とエアコンのダクトに見られたアシジロヒラフシアリの行列。推定される道しるべフェロモンの位置は、緑色で記載。
建物を横から見ますと、こんな感じです。屋外から来たアリは、壁を登りだし、隙間から壁の中、そして、室内へ入ってきていました。
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よくいわれるアリの対策方法について
アリを退治するとき、殺虫剤のスプレーや毒入り餌などが有名ですね。どちらも、アリを殺すという点では、期待される効果が見られます。
ところが、物足りない点や不十分な点もあります。例えば、屋内でスプレーした場合、目に見える室内のアリは死にますが、壁の中にいるアリは生き残ります。
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つまり、アシジロヒラフシアリによるボヤの可能性は残ったままです
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また、毒入り餌を室内においた場合、確かに直後は効きます。
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しかし、毒入り餌の効果がなくなると、道しるべフェロモンが残ったままになります。
道しるべフェロモンはとても安定な化合物です。シグナルを出し続けることで、最終的に、アリを室内奥深くへ導くことになります。
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アシジロヒラフシアリへの私の対策法1
依頼された家の最初の状態はこのようになっていました。
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アリがいる場所には道しるべフェロモンがありますので、屋外、壁、室内はこのようにフェロモンが分布しているはずです。
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アリとの勝負は、建物の外で、スプレーを使います。見回りは、朝、昼、晩の1日3回です。
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PR
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え゛っ?
これで、壁と室内のアリはどうやって退治するのですか?
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良い質問ですね
実は、建物の中にいるアリのご飯は、屋外から供給されています。ですので、建物の外側の勝負で、室内、壁のアリを兵糧攻めしたことになります。
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ご飯が無くなるとアリはどうなるでしょうか?フェロモンを出している余裕は無くなります。
じょじょに道しるべフェロモンが消失し、家の壁と屋内の道しるべフェロモンの濃度は下がります。つまり、新たにアリが侵入したとき、道は無くなっているのです。
この対策だけで、ほとんどの場合は、アシジロヒラフシアリの侵入の問題は解決します。
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毒入り餌について
この建物は、八丈町で話題の毒入り餌の実験区域にありました。依頼された方が、
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何をしてもいいですよ
と許可をしていただきましたので、この毒入り餌を試しました。
この毒入り餌は、
0.5 g | superabsorbent acrylic acid polymer (ポリマー) | ||||
30 g | granulated sugar(砂糖) | ||||
70 g | dionized water(水) | ||||
0.001% | thiamethoxam(ネオニコチノイド系殺虫剤) |
で構成されています。
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あの〜、誘引剤が含まれていると聞いたことがあるんですけれども
その誘引剤に引き寄せられて、八丈島の固有種が食べて死ぬことはありませんか?
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良い質問ですね
八丈町にも固有亜種が死んだ報告が上がっており、周知のビラは私も読みました。ただ、数字が出ていないので、科学的な因果関係は不明です。
ここで、研究者側の意見も聞いていただきたいと思います。
誘引剤という言葉は、attractantという英語を訳したものです。英語の論文では、同じ言葉を使ってはいけないという書き方のルールがあります。
原著論文を読みましたが、確かにattractantと書かれてありますが、指しているのは砂糖でした。砂糖は空を飛びませんので、空気を介した誘引効果はありません。
私が観察した限りでは、建物周辺で、ハチジョウコクワガタはけっこう死んでいました。ただし、そのときは、毒入り餌を使う前です。
この建物は土台がコンクリートであり、水がありませんでした。水分不足による死だと私は推察しました。
そして、あとで紹介しますが、アリが歩くところに毒入り餌を撒いた場合、ハチジョウコクワガタを含む固有亜種の死骸は見られませんでした。
ただ、八丈島の固有亜種の死骸は見つかっているのは事実です。
死因は、本当に毒入り餌を偶発的に食べてしまった可能性もありますし、毒入り餌は無罪で、水分不足による死の可能性も捨てきれません。
アシジロヒラフシアリへの私の対策法2
先ほどまで、スプレーの効果でアシジロヒラフシアリの建物への侵入を阻止してきました。次は、ダメ押しです。
スプレーをしていると、アシジロヒラフシアリが歩いてくる地面の道がだんだんと分かってきます。そこに毒入り餌を置きます。
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アシジロヒラフシアリは、餌(本当は毒入り餌)として認識し、今まで来た道を戻り、道しるべフェロモンを撒きます。毒入り餌周辺には、死んだ昆虫は見られませんでした。
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アシジロヒラフシアリへの私の対策法を建物の上側から見る
対策前は、この建物には5本のアリの行列がありました。
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スプレーをかけました。
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室内、壁、外の壁にいるアリを取り除きました。
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次に、毒入り餌を残ったアリの行列にいくつかに分けて配置しました。
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最後は、アシジロヒラフシアリは来なくなりました。周辺には、死んだ昆虫は見られませんでした。
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実際の毒入り餌の撒いた状況の写真です。
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最後のアシジロヒラフシアリへ対策
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助かりました
もうこれで、アシジロヒラフシアリは来ませんね
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いいえ、最後のパトロールがあります
花は、1年間、様々な場所で咲きますね。そして、それを追って、アリも、常に、甘いものを探しています。
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もしかして、アシジロヒラフシアリの探索隊が来るのですか?
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はい、そのとおりです
多くの場合、2頭1組のアシジロヒラフシアリの探索隊が来ます。それの対策をし続けてください。
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分かりました
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試験中の毒入り餌は、確かに効果はあります。ただ、チアメトキサム(ネオニコチノイド系殺虫剤)は強力なので、撒きすぎに注意です。
アリはハチ目昆虫です。アリに効く農薬は、ミツバチにも効きます。継続性の効果もあるみたいですね。
ですので、この毒入り餌のチアメトキサムの濃度も0.001%とアシジロヒラフシアリ用に特別に薄めて使われています。
私は、ダメ押しの対策で、地面の上のアリの行列に最小限の量で使いました。使用量を適切に守れば、人とアシジロヒラフシアリのすみかの棲み分けが出来ると思っています。
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アシジロヒラフシアリの対策の参考になれば、幸いです