小学校、中学校、高校、大学でも、
あの人は要領が良い
あの人は要領が悪い
という言葉を聞いたことがあります。そして、私は「要領が悪い」といわれた人でした。
研究の世界では、「要領が悪い=ネガティブデータを量産して実験の進みが遅い」と言い換えることができるかも知れません。
今日は、「ネガティブデータの大切さ」と題してのお話です。
研究はつまらないもの
先日、私が運営する科学クラブの3年間の研究が賞を受賞したお話を、このブログでも紹介しました。
1年目はアイディアがたくさん出て、2年目と3年目は追試実験ばかりでした。1年目は面白かったかも知れませんが、2年目以降は子供たちにつまらない思いをさせたかも知れません。
先生、実験の繰り返しばかりでつまらないよ
私の30年のプロの研究者としての経験から、「研究はつまらないもの」だったよ
つまらないと感じるならば、君は立派に研究しているよ
え゛〜(笑)
2年目と3年目は、毎回、子供たちとこんなやりとりをしていました(笑)。
思った通りの結果がでない
ダンゴムシが、迷路の中で、右に曲がったら次は左、左に曲がったら次は右という交替性転向反応を示すのは有名な話。どちらのケースも50%ずつ現れます。
でも、ある子の実験では偏っていました。
ん?
と思って、彼女の実験の様子をずっと観察していました。
彼女はとても真面目でした。実験操作に問題はありませんでした。
でも、みんなと同じ結果にならなくて、寂しそうにも見えました。
どれどれ、実験ノート見せてみて
はい(元気のない返事)
見事に偏った結果でした。私は彼女にインタビューしました。
座っている席はいつも同じ?
はい
記録をつけてくれる子の組み合わせはいつも同じ(実験者と記録者を分担して実験をしていました。)?
はい
でも、再現性の高い偏った結果が出るのであれば、それはその子の結果は正しく、結果の原因は他にあると考えなければなりません。
量産されたネガティブデータを基に視点を変える
私はその実験机から離れました。そして、実験室を見回しました。
科学クラブが借りている小学校の理科室は古いです。でも、十分実験ができる環境です。
もしかしたら、「机が傾いている?」と思いました。でも、理科室に水準器はありません。
ここで、全員に声をかけました。
実験を止めて
おかしな結果が出ている原因をみんなで考えてみよう
みんなと話しながら原因の意見を聞きました。その中に、「机が傾いている」というのもありました。
どうやって調べようか
ペットボトルの水を持っているから、その水の動きを見たら?
子供たちから画期的な案がでました。
思わず、
君たち、頭いいな!
と言ってしまいました。大人の私は水準器を思い浮かべましたが、小学生はペットボトル。
ゴールは同じところへ行きます。子供は本当に頭が柔らかいです。
原因究明
借りている小学校の理科室の机はたくさんありました。一つ一つペットボトルをおきます。そうすると、いくつかの机では、水の位置がわずかに偏っていました。
そう、微妙ですが、机が水平ではなかったのです。
これ以降、水平ではない机の上では、ダンゴムシの実験は禁止にしました。実験結果の再現性を求める私たちにとって、とても重要な発見でした。
ネガティブデータの大切さ
1人の女の子がたくさんのネガティブデータを出しました。彼女は、実験している間、つまらなかったと思います。
でも、そのデータが全員の研究を救ったのです。
私が大学院生だったころ、
ポジティブでもネガティブでも結果は重要だ!
と、先生は、私に繰り返し言い続けました。
私は
うるさい先生だなぁ・・・
と思って、当時は、先生の話を真面目に聴いていませんでした。
でも、先生が言っていたとおり、ネガティブデータも、ポジティブデータと同じくらい大切なのです。大学院時代の先生のダミ声が耳に蘇りました。
私は、ネガティブデータを出し続けた子を高く評価していました。子供に限らず、誰でもポジティブデータが欲しいものです。残念ながら、彼女は3年目の研究には参加しませんでした。
私は、ネガティブデータの山を築いて、不可能と思われる研究を成功に導いた経験が何度もありました。
でも、科学クラブを運営してたった3年。私の経験を子供たちに分かりやすく説明する力はありませんでした。
次回の科学クラブでは、ネガティブデータの大切さを子供たちに伝えられるように努力したいと思います